2024年度、日本経済を支える小規模サービス業の中でも象徴的な2業種ラーメン店と美容室が、大きな経営難に直面しています。地域に密着し、日常に欠かせない存在であるこれらの業態が、同時期に過去最多の倒産件数を記録するという、かつてない事態に見舞われているのです。
その背景には、共通する構造的課題と、それぞれの業種特有の問題が絡み合っています。本記事では、最新データと現場の声をもとに、業界が抱える「経営の壁」を読み解き、今後生き残っていくための戦略とヒントを提示します。
ラーメン業界:原価高と価格転嫁のジレンマ

帝国データバンクの調査によれば、2024年におけるラーメン店の倒産件数は72件。これは前年(53件)を大きく上回る過去最多の水準であり、特に1月〜7月の倒産件数は前年同期の約2倍という異常なペースで推移しています。
業界を襲う5つの負担
- 原材料費の高騰
小麦粉、豚肉、背脂、メンマなど、主力食材の仕入価格が前年比10〜20%上昇。円安や物流費の上昇も拍車をかけています。 - 光熱費の増加
スープの長時間炊き出しに大量の電力・ガスを要するラーメン業態では、エネルギー価格の上昇が収益を直撃。 - 人手不足と人件費増
飲食業界全体の慢性的な人材難により、時給の引き上げが避けられず、採用・定着コストも増加。 - 価格転嫁の困難さ
「ラーメン1杯=1,000円の壁」が根強く存在し、原価上昇分を価格に反映させにくい構造が続いています。 - 新規参入の増加と競争激化
FC展開の加速や、SNSで人気を集めた新興勢力の登場により、地域内での競合過多が常態化しています。
薄利多売を前提としたビジネスモデルにおいて、このような多重苦は致命的です。スープや麺に妥協できないこだわりの店ほど、逆にコスト構造に苦しむという矛盾を抱えています。
美容室業界:「三重苦」による深刻な淘汰

美容室業界でも倒産件数は過去最多に達し、2024年度2月末時点で197件。前年の182件をすでに超え、このままいけば年度末には200件台に乗る可能性すらあると予測されています。
特に深刻な「三重苦」
- スタイリストの人材不足
美容師国家資格保持者は多いものの、実働人員は不足しており、特に経験豊富なスタイリストの確保は困難です。引き留めのための賃金引き上げが経営を圧迫しています。 - 資材・光熱費などのコスト上昇
シャンプーやカラー剤、パーマ液などの美容資材は、過去5年間で約14〜16%の価格上昇。これに加え、水道光熱費・テナント賃料の上昇が追い討ちをかけています。 - 過当競争の激化
新規出店の増加、シェアサロンの普及、フリーランス美容師の台頭により、一地域あたりの美容室密度が過密状態に。都市部では割引競争が過熱し、「値下げせざるを得ない状況」が常態化しています。
これらの影響により、全国平均のカット料金は5年間でわずか約4%の上昇にとどまり、実質的には“値下げ圧力”にさらされ続けていると言えるでしょう。さらに、約3割が赤字、6割以上が「減益」傾向にあるというデータが、業界全体の疲弊を物語っています。
共通する構造的課題と”価値の再定義”

ラーメン店も美容室も、次のような3つの共通課題を抱えています。
- 価格転嫁の困難さ
「安さ=魅力」と捉えられやすい商材であるため、適正価格の設定が難しい。 - 利益率の低さと固定費の重さ
高回転・高頻度利用に依存するビジネスモデルでは、売上の波に対してコストの変動幅が小さく、赤字に転落しやすい。 - 差別化の難しさ
品質にこだわるほどに原価が上がる一方で、それを顧客にどう伝えるかという「マーケティングの弱さ」も課題です。
今後求められるのは、単なる値上げではなく、”価格に見合う価値”の提供です。そのためには、施術体験・接客・空間設計・ストーリーブランディングなど、トータルでの顧客価値の再構築が不可欠でしょう。
再生のヒント:すでに始まっている実践例
すでに一部の事業者は、再建に向けた創意工夫を進めています。
- ラーメン店の実践例:
- 冷凍ラーメンの全国通販:
新たな収益源としてEC参入 - クラウドキッチンの活用:
厨房のシェア利用による固定費削減 - 海外フランチャイズ展開:
海外市場でのブランド評価を活かした収益の多角化
- 冷凍ラーメンの全国通販:
- 美容室の実践例:
- 単価アップ型メニューの導入:
まつ毛エクステ、眉毛ワックス、ヘッドスパなど - サブスクリプションモデルの採用:
月額通い放題制で安定収益を確保 - SNSと口コミマーケティング:
ビフォーアフター写真やレビューを通じた集客
- 単価アップ型メニューの導入:
これらはすべて、”自社の強み”と”顧客の変化”に向き合い、戦略的に構造を見直すことで生まれた取り組みです。
補助金・助成金を活用
私自身、中小企業診断士として多くのサービス業経営者の再建や改善に携わってきましたが、経営の立て直しには「資金の余力」が不可欠です。現状を乗り越えるためには、国や自治体が提供する補助金・助成金の活用が強力な武器になります。
たとえば、以下のような支援策があります:
- 小規模事業者持続化補助金:
チラシ作成、SNS広告、店舗改装費、予約システム導入などに対応 - 雇用調整助成金・キャリアアップ助成金:
人材確保やスタッフの定着支援に - 都道府県・市区町村の独自補助制度:
内装改装費・感染症対策・エネルギー対策など地域支援
これらは、知らなければ使えず、使いこなすには専門的な申請知識や戦略的な計画づくりが必要です。
私はこうした公的支援を活用しながら、「自力で再生できる店舗」へと導く支援を行っています。単なる資金調達にとどまらず、補助金を活かして“次のビジネスモデル”を築くお手伝いができます。
まとめ

今は、経営が厳しいのは特別なことではなく、むしろ多くの事業者が直面している現実です。だからこそ、今このタイミングで、公的支援制度を上手に活用し、将来に向けた再構築に取り組むことが何より重要です。
「店舗をリニューアルして新しい客層にアプローチしたい」「人手不足を解消するためにITや設備を導入したい」「新たなメニューやサービスに挑戦したい」「補助金に興味はあるけれど、何から始めればよいかわからない」——こうした思いをお持ちの方にとって、補助金や助成金は単なる資金の援助ではなく、事業を進化させるための大きな後押しになります。
私自身、中小企業診断士として、これまで多くの店舗経営者や小規模事業者の皆さまの課題に向き合い、事業再構築や収益改善、資金調達などのサポートをしてまいりました。その中で感じるのは、「相談することが第一歩」ということです。補助金の活用は、計画づくりや書類作成、実行管理など、確かにハードルもありますが、ひとつひとつ丁寧に進めていけば、必ず道は拓けます。
補助金や助成金の申請サポートはもちろんのこと、事業全体をどう立て直していくか、今後どのように進化させていくかといった、経営に関するご相談にも丁寧に対応させていただきます。
「今後どうすればいいか悩んでいる」「ちょっと話だけでも聞いてみたい」——そんなお気持ちでも構いません。経営や補助金に関するご相談を、いつでもお待ちしております。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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